キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

世界が終わったとしても、人が失くしてはいけない物。ザ・ロード 

ザ・ロード スペシャル・プライス [Blu-ray]

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火を運ぶんだ

弱者への寛容。

分け合う心。他人を信じる事。表面上とはいえ

平和な社会では尊ばれる人間性

しかし

空を塵が覆い、社会資本は消滅。人意外の動植物は死に絶え、

残された選択肢が共食いか餓死しかない世界ならば、どうする?

 

武装したカニバリズマーに追われ、飢えと渇きに疲れ切りながらも

父と息子は歩き続ける。

 

人が人である理由、人類最後の火を掲げて。

 

ザ・ロード」は北斗の拳やマッド・マックスといった文明が死に絶えた後の

世界を描く、「ポストアポカリプス」系の作品だ。

ただし、例に挙げた二つの「世紀末ヒャッハー」物とは違って

モヒカンや肩パッドをした戦闘員は出てこないし

主人公はどこにでもいる一般人で、悪から弱者を救う事はできないのだ。

 

持っている拳銃にも二発しかこめられていないし

 「もし、悪い人間に捕まったら、自分の頭を撃つんだ」 と息子に説き

 

道中で人食い達が捕まえた人間を家畜として扱っている

小屋で、助けを求められた時も逃げ出してしまう。

これは、ヒーローが世界を救う話じゃない。

言うなれば、地獄を歩く人々を追ったドキュメント72時間という所か。

 

原作はピューリツァー賞を受賞した、コーマック・マッカーシー氏の

小説。

調べてみたら、やはり劇場で公開された「ノーカントリー」も彼の著書だった。

映画は、美容室でオーダーミスったけど恥ずかしくて言えなかったような髪型の

殺し屋。アントン・シガーの狂気と

トミー・リー・ジョーンズが完全に空気な内容に「おっおう」

ぐらいしか感想がない。

 

あくまで僕の中の理解だけど、彼の作風は、「ヒロイックの否定」にあるのだ。

現実性のない状況が舞台だからこそ、キャラクターが取る行動は

できるだけ、素っ気ない物にしている。

 

モノトーン調の配色は太陽光のか細さで寒冷化が進む過酷さを際立たせているし

人が去った街や、浜辺に打ち捨てられたタンカー、二人がリアカー代わりに

したショッピングカートの錆び具合はなぜか美しい。

これが、滅びの美学。という事か。

 

ノーカントリーはその原題「No Country for Old Men」(老人の国ではない)

の原題どおり

老保安官、エドが、「昔は平和だったのに」と呟くと

「いや、ここは昔から、暴力事件が多い土地だったよ。」

と返され、過去に望みはない。となるラストだが

 

この「ザ・ロード」では、息子に美徳でなくなった善意を教える事は

正しいのか。と迷う父親の葛藤。

 道中、自分達の食料を盗んだ男に慈悲をかける息子を見て

未来が消えていない事を確信する。

 

ラストシーン。際の別れの言葉「信じられる人は慎重に選ぶんだ」

は、誰も信じるな。とならない所がいい。

 

少年は歩く。

 

ただ、「生き延びる」のではない。

 

大切な人から教わった事をなくさないように。

 

人間性」という 火を燃やしながら。