キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

今日、いいことがないなら、死ぬことにしよう

文脈を思いつけない。左脳に仕事しろ。と命令しても、

俺にダメだしできる立場かよ。お前ニートじゃん。と屁理屈を返される。

自身の脳にすら侮られるとは。

 

パソコンを置いたちゃぶ台の上で不条理を嘆いていたら

何かが横を通り過ぎた。

 

Gである。

 

驚いて天板に足をぶつけた。

衝撃音で危険を悟ったのか速度を上げ、やはり

隅の方へ逃げていく。だが、向こうもテンパっているらしく

死角に逃げ込めず、押入れの前で停止した。

 

ティッシュで処理しようとしたけど、できなかった。

 

やつの、あの、くねくね曲がる触覚。千鳥足のような動き。

もしや、わざと人を不快にさせようと

計算して行動しているのだろうか。なんというあざとさ。

 

飛び道具に頼ることに後ろめたさを感じならも

魔人ブゥ(悪)に元気玉をぶつける悟空の気分で

 殺虫剤を振りかける。

 

あばよ。ピッ!

しかし、出るはずのジェットはでない。しばらく使っていなかったせいで

ガス圧が下がったのだろうか。

Gはあろうことか、逆サイドに逃げていく。

もう一度トリガーを引く。噴射はしたものの、うまくかからない。

タンスの隙間に逃げ込むG。このまま逃したら夜も眠れない。

 

sine!sine!ひたすらジェットをふりかける無職。

薬剤の半分を使ったおかげで

Gはタンスの隅の暗がりで息絶えた。

 

 

他人の生活にたかって生きている。という意味で

僕とGの間にどんな差があるだろう。

醜く生にしがみついている。

 

結局、僕はゴキブリではないか。

 

べったべたの床を雑巾で拭き、痛む足をさする。

 

なぜ今日に限って。

いや、大した事じゃない。

寝てる時に、顔にたかられて飛び起きるよりは良かったじゃないか。

バカな事しか浮かばないなら

一日の出来事。見方を変えれば、少しは楽か。

 

占いにすがる。

この社会に追い回されているような気がする。フリーターだった時も

ニートになってからも変わらない。どちらも社会の底辺だからか。

最近、人生が僕を振り落とそうと暴れている。

一日、一日、確実に苛烈になっていく。

昔だったら、いつかいい事がある。と言い聞かせ、しがみつく事が出来たけど

その、「いつか」は生涯こないとわかった今

それ以外の理由が必要だ。

「生きたいから」ではない。

 ゴミでも生きていて良かった。

と胸をはれる理由が。

 

 無職になってから、管理能力が低くなった。

忘れ物やそこにあるはずの物をなくす。

 

あれがない。これがない。

ない。ない。ない。ない!

 

なぜ。確かにここに置いたはずなのに!

よく探せば、端に落ちているだけ。

なのに、焦る。

無職になって余裕がなくなった。

もしかしたら、最初から持っていなかったのかも。

知らないふりをしていた。

 

なに一つ手に入れた事などないのに。

 

そんな中、テレビの占いが、どの局も一位だった。

悪い事は百発百中。いい事は当たった試しがない。

本当かよ。と苦笑いする。同時に

 

「今日、良い事がないなら、死ぬか。」

 

明日こそ。と今日を消費し、それを繰り返すだけ

なら、もうたくさんだ。

 

終わりにしないか。

 

今日。硬く決意して、外に出る。

目に見えて良い事などなかった。しかし、いざ。となると勇気がない。

だから、言い訳をする事にした。いい事はあった。

 

 笑える事はあった。

 

思い返してみれば、公園で遊んでいる子供。

鬼ごっこを始める前にルールを決めているらしい。

 

「水筒飲んでる時はバリアーね。」

 

なぜかわからないけど、そのワードだけ、強烈につぼった。

「だって水筒飲まないと死んじゃうじゃん!」

訴える少年。確かにな。

 

別のグループの子供がチャリで走り回りながらひたすら

お◯んちんを連呼している。女子もいる前で、大丈夫か。

 

 

図書館で、借りられていた本。今日は返されていた。

ラッキー。と思え。思はねば死ぬぞ。

 

スーパーで買った焼肉のタレ。これまた安売りだった

輸入豚肉と混ぜて食べる。昔は外国産とか勘弁だったけど

一回腹に入れてしまえば、何て事はない。量が多いけどほぼ脂身ばかり

だけど、直ちに人体に影響はない。

 

行きたいところはあったけど、行ったところで何になる。

状況が変わる事はない。でも、一回だけ。

なんてぐずぐずしていたら、天気までこの先ぐずついていくらしい。

海に行く時は、晴れた時と決めている。

なんて運の悪い。

 

いや、待て。これは天が情けを変えてくれているのだ。

心残りがあれば、それだけ寿命が長くなるし

そこに行ってしまえば、何て事はない。理想と現実は違うものだ。

 

一生行けないのが、幸せという場合もある。

考え方を変える

屁理屈と卑屈しかない脳みそが、生きたいという本能を満たすために

全力で働きだした。

現実でも、このくらい汗を流してほしいところだけど

欲は言うまい。

 

 

あしたどうなっているかは、わからない。

死にたい。という考えはこの瞬間もつきまとう。

でも生き続ける。僕は社会のゴキブリ。

生にしがみつく執念だけは、人一倍。

 

 

今日はなんの事件もなかったら

こんな調子のいい事をいう。

 

いや、何もないからこそ、最高の一日だったのだろう。