キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

人身事故ってある意味、社会への自殺攻撃だよね。

履歴書。これまで何枚書いただろう?100から先は覚えていないが、

無職、職歴なし、最終学歴、専門学校中退。こんな奴を雇う職場はほぼない。

あったとしたらそこは、確実にブラック企業である。

「お前のようなクズを働かせてやれるのはウチくらいだぞ」

そう言われたら、もはや言葉も出ない。

この世からブラック企業は無くならないだろう。

この世からクズがいなくならない限りは。

あなたが、ぼくのようにならない事を祈る。

 

ぼくのこれまでの苦労も一枚の紙切れ、たった2,3行で

表されてしまう。

なるほど、客観的に見れば、僕が味わったものなど、大した事ではないのだ。

そして、職歴の欄は2年前から止まったまま。今まで面接してきたどんな人もここで

「この後は何をされてたんですか」

ぼく「短期のバイトとか・・・ゴニョゴニョ」

面接官「あっ・・・・(察し)」

その後、適当にいつくか質問して、数週間後に、これまた一枚の紙切れが届く。

「あなたのご活躍をお祈りしています」

一周、ご活躍が、ご冥福に見えたのが気のせいであって欲しい。

文句ははとても丁寧だが、本当に祈っていないのがもろバレである。

まぁ、それは別に問題じゃない。ただ、こちらは手書きしか許されないのに

ワープロで打った文章を送ってくるのはどうか?

せめて、履歴書もワープロで打っていい事にしないか?

それとも、そちらも、手書きの文章で回答するとか。

これなら、文面がたった1行。

 

「おまえみたいなクズ雇わなくても、人が足りてる」

 

でも許せる気がする。

 

まぁ、気をとりなおして、新しいのを書くか。

と思いたったものの、新しいものが見当たらない。

いくら探しても、一枚もない。仕方ない。コンビニに行くか。

ついでに久しぶりにジャンプでも買ってこよう。と財布をとった矢先、

あまりに軽さに愕然とした。恐る恐る中身を確認しても、レシート以外は

入ってなかった。

もはや、履歴書を買う金も親に借りなければならない。

 

「今度雇ってもらえたら、そこにずっといなくちゃね。」

 

 

おそらくベンニー・ドロンでも作れない殺意がこもった

ナイフで心を刺されながら、家をでる。

店頭にはパート用と、普通用の二種類があったが

なぜか割高な普通用を手にしていた。

レジを打つ大学生ぐらいのバイト君。こんな若者ですら、社会に貢献しているというのに、僕は一体なんなんだ。

オサレなパーマがかかった髪から察するに、

これから限りない青春を謳歌するであろう存在を妬ましく思わないのが

まだ、自身への救いか。

 

要件は済ませたものの、まっすぐ家に帰る事が出来なかった。

窮屈な頭の中をさっきの言葉が満たしていく。

「お前は不当な扱いを受けている!反撃するべきだ!」

こうなってしまっては、しばらくは怒りが収まらない。

怒り発作を抱えた人間ができる行動はただ一つ、その場を離れる事

 

歩こう。

 

時刻は夜の8時過ぎ、線路沿いを歩きながら、「今日はどこへ行こうか」と考えを巡らす

せっかくだから、今までいった事がないところがいい。

「 ◯◯町の公園」いった。

「◯◯神社」いった。

「川沿い」あれはだめだ。夜は立ち入り禁止。

最初は楽しかった夜の散歩も、だんだん飽きてきた。そこで気づいた。

僕には元々目的地なんてなかったんだ。行き当たりばったりで生きてきた。

それがバチとなって今帰ってきたんだ。なぜか笑えてきた。

どこかで聞いたが、「笑う」というのは、脳が恐怖から逃げようとする作用

なのだそうだ。

youtubeで戦場の映像を見てくれればわかると思うが

やばい状況にいるにもかかわらず、彼らは笑い出す事がよくある。

まぁここはある意味で戦場だから、しょうがないか。

 

そのとき、僕の横を電車が通り過ぎていった。ちょうど帰宅ラッシュの時間帯で

車内に人がたくさん乗っているのが見えた。

 

こちらから見える。という事は、向こうからもこちらが見える。という事である。

彼らの視点から僕はどう見えるのだろう?

 

大量の人々に見られる僕。

この状況は何かに似ている。そう、サファリパークのバスだ。

 

まるで

「右手をご覧くださーい。あちらが、とうとうバイトすら受からない

この社会の クズでございまーす」

とガイドされているようだ。

 

なぜそんな事を思ったのだろう?

きっとこの、電車。という乗り物は、社会の象徴なのだ。

テレビでも再三放送されているが、日本の電車。というのは、世界に誇れる

物なのだそうだ。

いつも寸分遅れず、時刻通りに到着する乗り物。

人間の血管のように張り巡らされた路線。

 

朝早くからそのなかに

すしずめにされ、行きたくもない場所に行き、働く人々。

 

 真面目を絵に描いたような駅員。まるで、ロボットのようだ。

 

前に、僕が電車にダイレクトアタックしても、

 

「クズがっ!死ぬんだったら、他の所で死ねよ。」

 

という声が聞こえるだけど終わり。

という文句を書いたが、なぜ他の場所や、方法ではなく、電車なのだろう?

それは、ここで飛び降りたら、楽になれる。という考えもある。

 

ここからは僕の勝手な妄想だが、人身事故というのは、追い詰められた人々の

社会へのささやかな復讐なのではないか?

 

不平、不満があるにもかかわらず、それを口に出さない事は美徳だ。と

ある意味洗脳され、生き続ける人々。

そこからはじき出された自分。たとえば明日、僕が首をつっても、世界は何事もなく

進んでいく。

 

自分を追い詰め、はじき出した社会に

最後にせめて一死報いたい。それが、この日本の誇る電車。と

いう乗り物に体当たりする事によって

不平や不満を無視する世界への抵抗。

なんで俺がこんな目に会うんだ。と、愚痴りながらバラバラになった

手足を拾う駅員。

イラつき、舌打ちしながらスマホの画面を除く人々に

その声は聞こえるだろうか?

 

「明日はわが身だ。」と