キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

生きる資格が欲しかった。

簿記、ファイナンシャルプランナー、登録販売師、toeic

世の中は資格で溢れている。職につけるかも怪しい時代を勝ち抜くために

必要な資格。

 

でも、本当に必要なのは、生きる資格の一つだけだ。

 

 人生の答え合わせ=生きる価値なし

今年もあと2週間あまり。この一年の間に何をした?

労働で生きるために最低限必要な金を得るために必死になって終わった。

労働。といっても、フルタイムではなく、バイトであり、

週8時間+サービス残業をこなす常識的な社会人からすれば

「甘えるな」とか、「もっときつい人がいるのに、その程度で弱音を吐くな」とか

言われるだろう。

 

顔を合わせた全ての人に言われるから

月の労働時間、100数時間程度でストレスを感じる人間にこの国で生き資格はない。

 

しかし、外国は比べものにならない競争社会と聞く。

 

ここが漂流中に見つけた板切だというなら、爪が割れても、しがみついくしかない。

 

「働きたくねぇ」

 

生きていくにはお話にならない気持ちを扉の中に突っ込んで

固く鍵を閉めたのに、そのドアをぶち破って飲み込んでこようとする

激流葬みたいな社会の中で、なんとか沈まない程度に息継ぎしている。

 

心の底から聞こえる、「このままでいいのか?」という問いに

「溺れ死ぬよりはマシだろ」と答えた。雇ってもらう以外ないだろ。

好きな生き方で死ぬ勇気もないクセに。

 

バイトの内容の段取りをほんのすこしだけ理解し、

理想とは程遠くても、ようやく妥協できる現実に慣れたはずだったのに・・・・

 

 

将来を考える余裕なんてない。

 

今人間がやっている仕事は、将来AIで代行できる。とネットで騒いでいる

ネット社会の情報の多さは素晴らしいけど、その内容は毎日

ロクでもない暗い話題の洪水だ。

 

将来のために投資しなければ生き残れない。

しかし、投資というのは金と時間に余裕のなる金持ちがやる贅沢で

 

この瞬間、生きるだけで必死な貧乏人にそんな余裕はない。

 

一日を乗り切った。それを生きていてもいい小さな自信にしていく。

不満、不安は消せない。選択肢を間違えた後悔もあるけど分かれ道には戻れない。

自分に諦めをつけよう。これでよかったんだ。

 

そんな事を考えていると、終業まで残り15分。やっと帰れると思った矢先

「若いんだから、そんな仕事しててもしょうがないよ。」

 

始まったよ。年長者の苦言が。

 

そんな仕事、そのうちなくなるし、もっと希少価値のある資格をとらなくちゃ

 

 結論からいくと「職業訓練校に行くべき」という話をされた

 

そりゃ、くるもの拒まずなら行ってもいいけどテストに受からなきゃだめ。

 

安定が手に入る保証はない

 

「簡単で落ちるはずのないテスト」というけど

 

その簡単に落ちこぼれまくったから、「そんな仕事」をしているのよ。

 

さらに、申し込みはすでに終了。入校できるのは、来年の4月。

 

しかも、働いていると通えない。なるほど。

 

これを読んでいる無職は、安にバイトなど探そうとせず、職業訓練に行った方がいい。

 

時間を無駄にするだけだ。

 

この一年の答え合わせ。結果、選択肢は不正解。

 

あのままニートでいればよかった。たとえ気が狂っていたとしても

 

もうわかったよ。この社会はとことん雑魚に生きていて欲しくないみたいだね。

 

 

今わかった。濁流に飲まれそうな時、目の前に浮かんでいる

人一人が掴まれるサイズの板切にしがみつき

その板に寄ってきた他人を蹴落とす行為を認めてもらうための

価値。それを資格と言うのだ。

 

知らなかった。ただ生きるにも、社会の許可がいるなんて。

 

 

 

なんでも自動化すればいいわけじゃない。

終業の時間、タイムカードを押して帰り道を急ぐ。

 

 

真夜中に吹いてくる北風が体に染み込む。

 

さっきの事が頭の中でぐるぐると回って、惨めで歩くのも面倒なくらい疲れた

もうどうしようもない。それ以外言葉が出てこない。

 

立ち止まって、止まってもどうしようもないとまた歩く

誰への抵抗かもわからない牛歩を繰り返して駅につくと

 

乗るはずだった電車が通り過ぎていくのが見えた。

 

避けられない現実を思い知らされたとき、不幸がなし崩しに襲ってくる。

しみったれたやつにはそれが、この世から退場する理由になり得る。

 

それがどんなに小さな不幸でも。

 

新幹線アタックをとめるテリーマンの真似してみようとした

その時、スーパーの看板が目に入った。

 

最後にあったかいコーヒーを飲もう。レジに行列ができている。

一日もあと数時間で終わりというところでなぜこんなに?

目の前を埋め尽くす頭の先に、必死でレジをうつ人たちが見えた。

 

頑張ってるのはわかる。しかし、ぶっちゃけ、セルフレジの方が簡単ではないかと

思ってしまう。いずれ、彼らの仕事も無くなるだろう。他人事なのに悲しくなった。

 

順番待ちにイラつき、缶ビールをカゴ一杯にいれた 背広のおっさんにしょうもな。

とイラつく。

 

缶コーヒー一本しか買わないやつが何を言う。

 

レジは50代くらいのおばさんで、よく見る人だった。こういう時間は

忙しくて、釣り銭をまちがえたり、ごましたり、煽ってきたり、

 

缶コーヒー一個かってお客様気取りのやつが来る。大変な仕事だ。

 

僕の番が回ってきた。事務的な会話を済ませる。

人生の最後に口にしたものが、缶コーヒー。

クソみたいな人生の最後にふさわしい。

 

会計が終わった。そのとき、オバハンが「お疲れ様」と言ってくれた。

いや、別に前のサラリーマンにも変わらずに同じことを言ってたけれど

 

その瞬間に、小さな明かりがついた気がした。

 

このまま帰ろう。という気持ちになった。踏んだり蹴ったりの

世の中で生きるのに絶望している人間は、形式的な労いでも、生きていこうと

思うものだ。

 

それが、どんなに小さな希望でも。

 

止めるはずだった

在来線を待つホームはいつもより待ち人が多い。僕の隣にいる作業着のおっさんの

イヤホンから、銃声のような音が漏れる。最近のスマホはすごい。

 

FPSが手のひらに収まる。関心していると、画面の向こうで血が飛び散り

ゲームオーバーの文字が浮かんだ。

舌打ちをするおっさん。そのとき、ホームに響いたアナウンスが、

人身事故で電車が2分遅れていることを知らせる。

 

おっさんは再び舌打ちした。この人にとって、他人の命は、ゲームのキャラ

程度でしかないのだ。

 

ただ、このおっさんはわかっていない。もし、スーパーのレジが完全自動化されていたら、遅れが2分どころではすまなかったことを。

 

謝罪のアナウンスのあとに、電車がやってきた。すしずめの車内で、おっさんのズボンが随分汚れていることに気づいた。

よく考えたらこのおっさんだって、この時間まで働いて、クタクタなんだと思うと

少し、悲しみが和らいだ気がした。

 

ただ、生きるということ

 

前髪がうるさい。髪の毛を切らなければならないことを

思い出す。しかし、美容室に行くのは面倒だ。

有名な所に行った事はあるけど、雰囲気がお呼びじゃない気がするし

料金が高い。

 

数ヶ月に一度通うと考えると、まゆをしかめるものがあった。

 

どうにかできないか。とうんうん唸っても解決はしない。外に出よう。

最近自転車にのっていないな。と気づいて、あてもなく走っていると

 

小さな看板が目に入った、赤と青の縞がぐるぐると回るガラスの管。

懐かしい感じがする床屋さんだった。ここに行くべきだ。という直感があった。

店員の第一印象は悪くない。オシャレなおっさんといった感じだ。

 

美容院の場合、店員との会話が取り調べのように感じるけど、不思議とそんな感じは

なかった。店にはおっさん一人で、よそから移ってきたことを知った。

 

こんなさびれた町ですいません。と答えると、でも、僕ここ好きですよ。と返ってきた

 

形式的な回答でもいい。自分の生まれ育った町が褒められるのが嬉しかった。

 

床屋というと、スポーツ刈りにされるとう先入観があったけど、そんなことはなかった

 看板にあった料金は、都会の半額だけど、もっと金を出してもいい気がした。

僕の賃金がもう少し高ければいいのに。

 

 

顔剃りしてもらう間に、子供の頃によく通っていた床屋を思い出して

そういえば、あの頃は途中で寝ちゃって、おじさんに起こされていたこと

頭にヘアトニックをぶっかけられ、頭皮を襲う衝撃の清涼感に泣き出してしまったことを思い出した。

 

そんなことを思い出しすとなぜか楽しくなった。小さな店だったけど、またきたいと

素直に思った。

 

生きる資格が欲しかった。

 

あの頃、なぜ楽しかったのか。ただそこにいるだけで、生きていてもいい。と思えたからだ。

それは過去を美化しているだけと言われたらおしまいだけど、そんなことはない。

根拠もないけど、世の中は確実に生きづらくなっている。

 

少なくとも、10年前は、こんなに資格習得の学校や通信教育の広告が溢れては

いなかった。

 

いつの間にそこにいるには資格がいりますよという世の中になったんだろう

 

僕はただ、生きる資格が欲しかっただけなのに。