キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

ハローワークは頑張らない奴をこらしめるためにある。

仕事を辞めたいとき、辞めてから金を稼ぐ方法を考えるのは、みんな同じ。

 最近だと会社に縛られずに稼げると言う人もいるけど、一部の優秀な人以外関係ない。

頭の悪い労働者にできるのは、こびへつらう先を変えるぐらいだ。

 

そんなわけでやってきたハローワーク。できるなら来たくなかった。

ここに来るたびに感じる、自分がどうしようもなく独りだという

気持ちをどう伝えたらいいだろう。

 

職業安定所というわりに、不安しか見つからないない場所の

見た目だけは立派な階段を上がる。

職安よりも先に自衛隊の出張所にハローするから冗談じゃない

 ニート自衛隊に入れて根性を叩き直そう!と怒鳴っていたおじさん達

お前がいけばいいじゃないか。

夜中のコンビニの搬入で、ヨボヨボの爺さんが背丈ほどの

カートを押してくるのも珍しくない。

今は一億総活躍社会。国に最後のご奉公をすればいい。

 

そんな毒舌を胸にしまって、やってきましたハローワーク窓口。

まるでカカシの職員に受付で番号札をもらう。

求人表のパソコンを使うためだ。別にセルフでよくね。

A4の下敷きぐらいある番号札を手にパソコンの前に座る。

 

この椅子の低さはなんとかならないものか。調整できないのに座りづらい

行政は金を使うところがヅレている。

タッチペン操作のパソコンが一番最初に聞いてくるのは、自分の年齢。

「お前今、いくつよ。今まで何してたんだ?」

麻生太郎ボイスで脳内再生された入力画面。

 

そんな文章どこにも書いてないけど、現状を思い知らされるのは辛い。

30目前のフリーター。今まで何をやっていた。

どうして今まで頑張ってこなかったんだ。そう聞かれている気がする。

 

タッチペンがやけに重い。必要事項を入力する。

麻生(パソコンのあだ名。今つけた)は根ほりはほり聞いてくる

希望する職種は?家事手伝いですとは言えない。こだわらない。っと

週休いくつ希望?一週間と言えば死ぬしかない。まぁ、隔週二日は欲しいよね。

希望の勤務地は?どこでも行きます!・・・と言いたいところだけど

通勤時間を考えると、30分以上はかけられないよね。

正社員になりたい?それともパートがいい?どっちでも。

その他色々な質問をしてくる。意外と親身になってくれているじゃないか麻生。

 

口では突き放しても、なんだかんだ面倒見てくれるんだね。😊

エンターボタンを押して、いざ求人表一覧へ。

一ページ目に表示された求人表、募集内容は 、24時間勤務。パート。

勤務地は、千葉県、埼玉、etc・・・・・行けるわけないじゃん。

 ここまで引っ張らなくても、読者のみんなはわかってたよね。

 

お上のやることなんて、ガワだけのポーズ

でも、溺れる者は藁をも掴むっていうだろ。

求人表一覧のページをスクロールしていく。

いつも思うけど、同じ会社が何十件も求人だしてるの反則だろ。

 

数だけあっても、これじゃあ水増しだよ。

それでもページをめくる。これもダメ。あれもダメ。

次こそは・・・・次へをクリックしても、反応しない。

モニターの故障だと思った。

故障してるのは僕の頭だった。

求人表は最後のページを示している。

仕事探しに来ただけ偉いよ。慰めようとするけど、応募しなければなんの意味もない。ガワだけのポーズをしているのは自分も同じか。

 

もうダメだ。伏せた目がモニターに貼ってあるシールに行き着く。

「求人表でお困りの際は、職員にお声がけください。」

もしかしたら。この後に及んで抱く希望。当然だよな。

 

絵に描いたような公務員ヅラのおっさんに声をかける。

ハローワークのカードを持っているかと聞かれた。

カードがあることすら知らなかった。カードがあってなにがお得なんだ。

求人表に応募すればポイントでもたまるのだろうか。

カードを出せbotとかしたおっさん。

気は進まないけど、作ったカードは

カードというより、ペラペラのボール紙であった。

そこらのスーパーでももう少し厚みがあるっていうのに。

何に金を使ってるんだ。国は。

まぁいい。

気をとりなおして、RPGの村人並みに

語彙の少ないおっさんの元へ。

 

キーアイテムを持ってきたことで選択肢が変わったらしい。

 

求人表を見せろとの指示を受けて、印刷した求人表を渡す。

ハローワークと聞くと、渡された求人表を見て

職員が会社に電話をかけて、こちらの疑問を聞いてくれるものだと思っていたけど

考えが甘かった。甘すぎた。コンデンスミルクくらい甘かった。

電話が繋がった途端、電話機を押し付けてくるのは予想外だった。

 

さぁ、質問して。というジェスチャーをする公務員。

 

 いやそれがあんたの仕事やないんかーい。

 

改めて聞いてみたら、ハローワークの役割は「仲介」 であって、

電話して、ハローワークです。と名乗るだけそれ以上のことはしないそうだ。

 

じゃああんたが今まで聞いてきた、余計な御世話の数々はなんだったんだ?

電話するだけなら自分でやるっての!


もういいや。疲れた。

仕事を探すだけでなんでこんなにヘロヘロにならなきゃいけないんだろう。

馬鹿馬鹿しい。

帰ろうとしたら、忘れ物よ。と呼び止められた。

手には一枚の紙切れ。

物語ならこれが重要な手掛かりになるはずだけど、ただのハロワのカードだった。

 

しぶしぶ財布にしまい、部屋をでる。

 来る時より疲れたな。この両肩にのしかかる物の正体はなんだろう。

ニート徴兵説のおっさんといい、この国は頑張れない奴を全力で

こらしめるのには長けている。

階段を降りている間、すさまじい孤独感に襲われた。

どこへも行けない。なんの価値もない。自立できるような仕事もない。

なんなんだこの人生は。死にてぇ

そこまで考えたとき、「死にたいなら独りで死ね」という言葉が空耳して

泣いてしまった。

 

自分が悪い。それはわかってる。

 

でも、もうどうしようもなく独りだというのは、もう、あまりに・・・・

 

玄関を出たとき、道行く人々が憎らしくてしょうがなかった。

高校生のカップルがいちゃつきながら通り過ぎていく。

僕にない物を全て持っている人々が憎い。

 

なんで僕はこんな人間なんだろう。頑張ってこなかったからだ。

答えは簡単。わかってはいるけど、辛すぎんよ。

近くにあったベンチに座っていたら、数時間動けなくなってしまった。

すっかり日が暮れて、梅雨の時期の肌寒さに耐えかねて家路につく。

駅にあった求人誌をひったくる。

隅から隅まで読み込んで、無職だったときの孤独と無力感を思い出した。

 

息苦しい1日が続いていく。

 

この先どうやって生きて行けばいいのか。わからない。

 

帰り際、狭い路地で見上げた空を、全身を電飾で飾った飛行機が走っていく。

あれに乗って、ここじゃないどこかへ行けたらどんなにいいだろう。

そもそも、飛行機に乗る金を稼がなきゃいけないんだけど。