思い出は僕らを傷つける。
「なんでもないような事が、幸せだったと思う。」
虎舞竜の名曲、ロードのサビだ。
全13章にも及ぶ壮大な道のり。舗装工事する会社は骨が折れるだろう。
初見では、長くね。意外の感想を持たなかったけど、今ならこの歌詞の
深さがわかる。
幸せ。とは宝くじが当たった。とか、成功者になった。
というわかりやすい物ばかりじゃなく
ただ通り過ぎていくだけの日常にもあるのだ。と
わびさびってなんぞ?
「ちりん、ちりん」別に涼しさは感じないけど、小さくてもよく通る音の出所が
気になって立ち止まった雑貨屋。SALEの張り紙で見えなかったが
風鈴は入り口の向こうにあり、「せっかくここまで来たのだから」と
商品を見て回る事にした。
これが店側の戦略だとしたら、かなりの知将である。
店員は年配の方ばかり、棚に並べられているのは陶器類が多く、どれも
「なんでも鑑定団」に出てきそうなデザインで、中々のお値段だ。
違いのわかる鑑定師だったら、「いー仕事してますねぇ」としみじみ呟くのだろう。
残念ながら、目の肥えていないクソニートには
同じようなのが100均で売ってる気がするし、金に余裕はない。
だけど、古臭い味わい深い食器は見ているだけで懐かしくなる。
まだあの人が健在だった頃、こういう物に目がなくて、よく買ってきては
「みて、みて、これ、◯◯(近所のショッピングセンターに
入っっていた雑貨屋。現在は閉店。)で売ってたんだ。可愛いでしょ。」
と僕に見せびらかしてきたお皿。
食器棚に同じ物が5枚はあるのに・・・という問いは
あの人の宝物を見つけたような笑顔で引っ込んでしまった。
植物が好きな人だった。まだ、家にこじんまりとした庭があった頃
種から育てた目が咲いた時、嬉しそうに
これが、なでしこでしょ。これが、風鈴草で・・・
と解説してくれた。
本当はもっとたくさんの種類があったけど思い出せない。
モビルスーツの名前ならスラスラ出でくるのに
それでも、楽しげだったのだけは覚えている。
花があしらわれた花瓶を見て
こういうの好きだったなぁ。
と心のなかでつぶやた瞬間、「だった」という過去形が
とてもむなしく響いた。
脳裏で再生される映像はいつもにこやかに微笑んでいる。
特別なイベントは一つもない。ただ通り過ぎただけの
なんてことはない出来事。
それを心のなかで思い浮かべるだけで
泣きたくなるのはなぜだろう。
わかってるさ。本当に大事な物は、物じゃない。
プレゼントした人がいて初めて特別な意味を持つ。
気づいた時大慌てて探してみても
もう帰ってこない時間こそが宝物。
思い出はいつも僕らを傷つける。