キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

タイムマシンで過去に戻れない理由とは。

物理学者でもないメルヘンニートには

理屈にあった説明はできない。

内容のないポエムでいいなら

人間の日々は取り返しのつかない事でできているから。

なのだと思う。

 

雷や生ごみを動力に空を飛ぶ車や、

万年零点の少年の机の引き出しにつけられた魔法の絨毯。

例をあげるだけで、ブログを書き終えてしまえる。

人間にとって時間旅行は憧れだから。

 

戻らない日々、見えない先

今よりはるか先の未来、どれだけ進歩しているのだろう。

空飛ぶ車、紐を自動で結んでくれる靴、できたらいいな。を叶えてくれる

猫型ロボット。天敵のネズミを駆除するために地球破壊爆弾を取り出す。

ある意味、T-850より凶悪である。本で見たけど、

彼が本気で地球を破壊したければ爆弾なぞ必要ない。

スモールライトかビッグライトで地面を照らせばいい。膨張または収縮した地面と

他の箇所の釣り合いが取れず、地面に断裂ができ、やがて地球が真っ二つになる。

星に致命的ダメージを当たる道具ばかり取り扱っている

「未来デパート」疑惑の総合商社である。

 

人は未来を夢見るのと同じくらい、過去に行きたがる。

人生というのは、選択の連続だ。

僕は、やらなければよかった事。とやればよかった事を繰り返して

今日に流れ着いた。

あの時、こうしていれば。テレビゲームのようにセーブポイントがあって

間違えたら、リセットできれば、どれだけいいか。

 

苦手だった客No.1「野菜ジュースのおっさん」

ここからは、又しても、どうでもいい過去編に突入する。

まだ社会にしがみついていた頃の話。

バイト先のコンビニ。場末の店で、客は、新しくできた他店になびき

いつ閉店してもおかしくない状況。

 

僕は毎日社員や先輩バイトに罵倒されてすごした。

責任ある立場の人は本部から売上をチクられ

なんとか利潤をあげようと

他の店では嫌煙されているような客に媚びを売っていた。

 

中でも厄介だったのが、時たま現れる「野菜ジュースのおっさん」で

取り扱っていない種類の商品を欲しがり

「お兄さん濃すぎる野菜がねぇな。」と僕に言う。

取り置きしても買いに来ない。仕方なく商品を捨てる。

何週間かしたら、再び現れる。そして、また

「お兄さん(野菜ジュースなんて飲まなくても死なねぇだろ)ねぇな」と言ってくる。

そんなん断わればいいじゃん。と思うだろうけど

 

そのおっさんは、自営業っぽい事をしているらしく

ごく稀に、儲けの高い商品を買っていくため

店としては逆らう事のできない存在だった。

 

坊主頭に千原せいじ氏でも着ないような派手な柄シャツ。

セカンドバックを携帯し、香水の匂いを撒き散らしつつ、

レジで僕を煽る上に、いつも閉店間際に来るその姿勢から

僕は彼が苦手だった。

 

勿論、職場環境なんて、どこも似たような物だろうし

書いている本人の仕事を覚えない姿勢こそ、一番の原因であるのは

あきらかだ。

 

 

なんで俺はこんなところにいるんだ。

 どうせバイトだし、やめようか。

「ここでないどこかに居場所などない。」

わかってるさ。

 

痛いほど。

 

 

そんなある日。

僕の終業時間まで、あと15分。もう少しで帰れる。

時計の針をガン見していた。

 

「あのう。すいません・・・」

消え入りそうな声で我に帰る。

目の前には全盛期の安部なつみによく似た女の子が立っていた。

財布を出したとき、学生証が落ちた。大学生なのだろう。

拾ったときの「ありがとう」を僕は生涯忘れない。

 

 その子はたまに来店し、僕のゴミバイトを続けた数少ない理由を作る。

 

あの子、来ないかな。レジから外を見て、いつも彼女を探していた。

 

やってきたときは、「一年もいてなんでこんなに使えねぇんだ。」

という社員の指導も気にならず、有頂天。

 

 何度か話しかけようとした。こんにちは。くらいでもいいから。

なのに、その子を前にすると、僕の声帯は仕事を放棄してしまった。

特定の異性に興味を惹かれ、会いたい。と思う気持ち。

その子が彼女だったら、どれだけいいだろう。

 

高卒フリーターのずんぐりムックリには、過ぎた代物か。

 

 仮に何かの間違いで付き合ったとしてもあっという間に

愛想を尽かされただろうし

大学に行けば、男なんて腐るほどいる。

彼女の視界に僕は映らない。僕は・・・・ステルスか。

 

そうして、諦めるほうが利口。という判断に。

彼女は髪を切っていた。

似合ってる。と思った。素直に、かわいいね。と言ったら

なにか変わっただろうか。

 

せっかく学部にいるイケメン君のためにオシャレしたのに

コンビニでキモオタっぽいデブに絡まれたんだけど〜

ランチタイムに談笑する彼女を思い浮かべると、何も言えない。

 

 

 それ以来、その子は来なくなった。

 

勤めだして2年と半年の事。

偉い人数人に従業員が個別で呼び出され、閉店を言い渡された。

 

夏も過ぎ、空気が澄んできた秋晴れの空。

もしかしたら、あの子の通る姿だけでも、見れないか。

そんな淡い期待に応えるように鳴る入店の音声。

 

入ってきたのは

 

「野菜ジュースのおっさん」略してやっさん。

 

僕はひるまなかった。なぜなら、今日で閉店する店で取り寄せなどできない。

最初で最後の反撃のチャンスを得たのだ。

 

さぁ、来いよ。やっさん。セカンドバックなんて捨ててかかってこい。

内心でベネットを挑発する筋肉モリモリ、マッチョマンの変態になりつつ

カウンターの機会を待つ。

そして・・・!

 

「おにいさん。ポマードがねぇな。」

 

やっさんはそう言い残して去っていった。

最後に客に言われた言葉がこれだ。

 

「ポマードなんてどうだっていいでしょおぉ!!」

 

所轄の仕事にイラだつ真矢みきのイントネーションで心が叫びたがっていた。

 

だって、あなた、ぱっと見、目つき悪い織田無道じゃん。

整髪する髪がないじゃん。

あれかな。口裂け女でも倒しに行くのか。

 

そんな考察をしつつ、見送った彼の背中、同時に見えた向こう岸の路地を

カップルが歩いていた。

男のほうの顔は分からない。

でも、女性の方は見間違うわけはない。

なつみちゃん(仮名)の笑顔を初めて見た。

そうか。笑うとえくぼが出来るのか。

かわいいなぁ。

自分に向けられたものでなくて構わない。

生まれてこのかた、他人に不快害虫以上に見られた事のない僕に

この幸せそうな顔は引き出せない。

 

彼らは、そのまま、すき家へ入っていった。

僕は松屋派、残念だ。

デートで食事が牛丼屋とか無理って女子も多い。と聞くけど

愛があれば、問題ではないのだろう。きっと。

 

命を食べて、生きている。

誰かに聞いた。人を殺す。命を取るのは

 

「戻ってこれなくなる事」

 

だと。

誰かの時間を停止させてしまったのに

 自分の時計は止められないし

巻き戻そうと思うのは、傲慢な考えだ。

 

殺人などした事もないという人も

牛、豚、その他諸々の肉を食べてきただろう。

僕らは毎日、他者の 命を消費して生きている。

 それを元に戻す事はできない。

これが僕の思う、人間の過去に戻れない理由だ。