チェスター・ベニントン追悼。さよなら弱者のヒーロー。
いつからだろう。前後すらわからない暗闇に突き落とされ、歩いても進んでいる気がしなくなったのは
いつからだろう。前向きな言葉が、前を向いているだけ。になったのは。
いつからだろう。人聞きの悪い感情を抑えられなくなったのは。
いつだったろう。怒りや悲しみは欠けてはいけない心の一部と教えてくれた人。
チェスター・ベニントン。そしてリンキンパークに出会ったのは。
就活という地獄。
ネットで新卒向けの就活サイトに登録し、説明会の予約をとって、窮屈なリクルートスーツを着て地下鉄の複雑な乗り換えをこなし、会場を目指す。
移動も筆記試験も面接も精神をヤスリがけされている気分。企業からくる封書にはいっているのは不採用通知ばかり。
努力は報われると信じた。信じたかった。でも、世間と自分が思う努力には、マリアナ海溝並の溝があった。
常人の常識に合わせるために努力していた時点で、そいつは社会不適合者。この頃はまだ自分がダメ人間だという自覚がなくて、「気合でなんとかなる」なんて、ごまかして。
膨れ上がる汚いものを心の片隅に押し込むのも限界。ある日異変が起きた。それまで聞いていた音楽を再生しても何も感じない。お気に入りリストは
「明日はきっとくる」「明けない夜はない」「止まない雨はない」と励ますけど
待てど暮らせど昨日と同じ、真っ暗な闇の中を土砂降りの雨が降りつづいている。
苦しい。辛い。わかってるさ。みんな同じだって。でも、飲みすぎたときのゲロみたいに喉元まで上がってくるそれを我慢できない。
夕食どき、一番近い人。家族に漏らしたその愚痴は、気合でどうにかしろ。の一言で済まされた。まるで最初からなかったように。
嫌な事から逃げるな。メディアで流れる前向きな歌詞は、嫌で仕方ない事を我慢できないやつを無視して鳴り続ける。
弱音を吐くやつなんて最初からいなかったみたい。頭の中で誰かがつぶやいたとき、足が止まった。そして気づいた。
この場所は弱虫など存在しない。最近流行りの日常系コンテンツを見ればわかる
主人公に都合の悪いやつは存在せず、怒りや悲しみが徹底的に排除された完璧なユートピア。
自分の人生がうまくいかないのは、個人の努力不足。そう考える人たちは、
二次元の画面を見すぎたせいで、物体には奥行きがある。当たり前の現実を忘れてしまったかのようだ。
平面で見えている物の裏には、こんなにも孤独と、悲しみと、不寛容と、絶望と、不条理で溢れているというのに。
お前だけが辛いんじゃない。そう言葉をかけられるたび、怯えていた。ネガティブなゴミの耳には、「みんな辛いのに、お前だけ愚痴を言うな。甘えるな」
という叱咤に感じる。近しい人々の励ましの言葉が、とてつもなく遠くから聞こえてくる。
虚しい。悲しい。辛い。逃げたい。全てを投げ出して。ごみくずの避難所、あの世への
一歩を踏み出しかけたとき出会ったのが、チェスター・ベニントンだった。
チェスター・ベニントンの死から1年
チェスター・ベニントンが自らの命を絶ってから、一年がすぎた。信じられない。
あの日受けた衝撃が、たった今起こった事のように心臓を跳ね上げる
この件については何回か記事にしてる。
senbeibj59634hu.hatenablog.com
senbeibj59634hu.hatenablog.com
なぜ芸能人。それも海外アーティストの死が、これほどまでに悲しいのだろう。それは
彼が、誰よりも弱者のそばにいたから。だと思う。
リンキンパークの歌詞は全編英語の洋楽だけど、歌っている内容は、打たれ弱い人々のためのものだった。
チェスター・ベニントンは一言で言えば、「かっこよかった」それは、洋楽聴いている俺云々を超えた、もっと直感的な何かだった。
彼らの楽曲に救いはない。ただひたすら、辛い。苦しい。しんどいと連呼する。しかしそこからは不思議と絶望を感じさせない。
彼は怒っていた。何に?かは本人にしかわからない。しかし確実なのは、彼は心にある
その怒り、悲しみを、燃料のように燃やして、暗闇の中を進み続けた。という事。
俺は辛いんだ。俺は苦しいんだ。もうたくさんだ。憚らず叫ぶ事で、現実に真正面から
立ち向かっていた。
それは同じ場所にいる人々に、悲しみと怒りを否定するな。というメッセージ。
負の感情はなくしてはいけない。むしろ必要だ。SNSにはぬるま湯のような発言が溢れているけど、それはインターネットの中だけ。
モニタの前から離れれば、己以外を頼りにできない現実の世界が待っている。
悲しみと怒りが人を前進させる
現在の現実は、暗い感情を恐れるあまり、強い光を当てすぎている。完璧な世界を求めるがあまり、弱者をいないものとして扱う。
現実は厳しい。ここから救い上げてくれる人を待っていても迎えはこない。他人を当てにするから不満が出る。貯蓄、投資、海外移住。自己防衛。基本だよね。
明けない夜を待つのではなく、光の届かない海底でも手探りで進んで行く覚悟を。
たとえ味方などいなくても、自分の道を進んで行く強さを。この、曖昧な寛容の残る、不完全なディストピアを一歩一歩確実に。
最後に、我が人生でも一番過酷な現実を認めなければいけない。
ごみくずの肩を叩いてくれた人はもういない。ここからは、自分の足で歩くしかない。
あなたはもういない。その悲しみを生涯燃やし続ける燃料にして。
さよなら。チェスター・ベニントン。最高にかっこいい、弱者のヒーロー。