キリギリスはなぜ死んだ?

社会に、いらね。と言われた奴の最後のあがき

現実から逃げたい。仕事が辛い。それでも逃げたくない。

現実から逃げたい

胸の奥が痛いくて重い。心臓の音が骨を渡って、全身をきしませる。

 

仕事が辛い。「やだよ。行きたくないよ」。耳のそばで聴こえる叫びを振り切るように足を動かす。

 

望まない場所に近づくほど、心臓はこなきじじいのように重くなって

肺の奥に沈んでいき、鼓動の間隔はどんどん短くなる。

 

まるで警報のよう。最初は「嫌だ。嫌だ。嫌だ。」駄々っ子みたいな声が心筋を

跳ね回って、次第に「逃げろ。」という命令が連呼する。

 

 

どれほど心が疲れた。といっても、目指す場所もわからないまま飛び出したら

辿り着くのはどんづまりだけ。

 

逃げると言っても自分のいく末をしっかり見据えた逃げ道が必要だ。

 

そんな短期的な計画すら立てられない無能は、破裂しそうな風船にヒヤヒヤしながら

生きる不快感と付き合っていくしかない。

 

いっそ引き裂かれてしまえば 楽なのに。淡い願いむなしく、下手くそなドラムのようなリズムは治らない。

 

いつまでこんな窮屈な思いが続くんだろう。答えはわかってる。でも認めたくない

 

生きている限り息苦しさは切り離せない。それが現実だというのなら、

 

もう現実から逃げたい。

 

  逃げ出したいのに、逃げられない。

 

 やはり切り離せない「将来」

 

駅のホームでいつも考える。

一生懸命歩いた。でも足跡の歩幅の短さは、足踏みとの違いがわからないくらいの差。

 

 

何も変えられない。うんざりだ。こんな毎日。もう嫌だ。自分への苛立ちが大きくなる

電車がくる。というアナウンス。足元の黄色い線を見つめる。

 

八方塞がりの生活の唯一の逃げ道。あの世の存在。あるか、ないかは重要じゃない。

あと数歩踏み出せばこの苦しみは終わる。それだけは確か。

 

電車の警笛が近づく。

 

行けよ。

 

ほら 

 

早く 

 

何してる?

 

ファッション死にたいと言われればそれまで。でも、土壇場で足が離れない。

 

自分の人生は自分以外に変えられない。わかってる。だから逃げたい。でも、

人生から逃げ出す勇気すら備わってなかったのか・・・

 

救いのない世界。ちっぽけな命。

 

5,4,3,2,1・・・・勤労の義務から解放される時間になった。フルタイムの社員の嫌味を

スルーし、タイムカードを押して福男選びよろしく、職場から駆け出す。

 

朝は死ぬほど嫌だった電車に早く乗りたくてしょうがない。

遠足に向かう小学生のような気分だ。

 

帰れる。好きなだけ眠れる。心をぴょんぴょんさせながらくぐった改札。

その向こうではスマホとにらめっこしたり、駅員に詰め寄る人々で混雑していた。

 

いつもより多い。というより、人の流れが止まっている。見上げた掲示板には

電車遅延の文句が流れていく。

 

右から来た文章を左へ受け流そうとしても、背中にへばりつく疲れに邪魔されて

予定を狂わされた苛立ちは行き場のない怒りに変わっていく。

 

なんでよりによって今日なんだ。そんなに死にたいのなら

他人の迷惑にならない場所で死ねよ。常識知らずな奴め。

 

 イラついても、状況は変わらない。ホームに人はいない。ベンチに腰掛け

缶コーヒーをすする。

 

脳天に上りきった血がジェットコースターのように転がり落ちて、悟る。

 

おいおい。お前だって、その常識知らずに加わろうとしてただろ。ついさっきまで。

 

誰も自分を見ていない。と嘆くけど、他人の痛みに関心を持った事があったか。

 

責任感が強く、真面目。自殺する人は、いい人。だと思う。

 

でも、この現代社会では、「いい人」は「どうでもいい人」と同じだ。

 

あたりを見回す。駅員に怒鳴る人、遅延の掲示板を写メする人。何に使うのだろう。

遅延の証明?それとも、ツイッターに載せるのか。

 

不思議だな。SNSが普及して、みんな他人の優しさを求めているなら

隣にいるおっさんに調子はどうだ?と聞けばいい。

 

愛されたいなら、愛する事から始めなさい。

 

 

なんてポエムを思いついているうちに、事は片付いた。いつの間にか全てが元どおり。

 

まるで何もなかったみたい。そんなものだ。人の命なんて。

 

どうでもいいごみくずが、人生から逃げ出したところで、電車が5、6分遅れるだけ。

 

 配られたカードで勝負するしかない。とよく言うけど、手元にあるのはカスカード

ばかり。勝てない勝負になぜ挑まなければならないのか。

 

負けるとわかってるなら、戦おうが逃げようが同じじゃないか。

 

そんな憂鬱と共に、1日が始まる。なんの変化もない日常。

 

強いて言うのなら、ホームの警備員がやたら増えた。警備する前に介護が必要そうな

爺さんが働いている。

 

そう。人間は働かなければならないんだ。生きている限り。

 

誰かが、仕事の辛さから脱落し、誰かが別の仕事にありつく。

そうやって人間の命は循環していくのかもしれない。

 

それでも、まだ、逃げたくない。

 

 逃げちゃダメだ。というセリフがある。でも、ダメだ。と強制するのとは

ちょっと違う。

逃げ出したい。でも、まだ諦めてくない。

 

まだ、自分の可能性を否定したくない。まだ何者にもなれる。そんな気持ちを捨てたくない。

 

全てのはしごを外されて、どこにも行き場がない。自分は終わったと思ってた。

 

それは誰かに使われる道ではなく、自分の道を歩き出した証拠。

そこからが本当のスタートだ。

 

生活は苦しい。逃げ出したいと思うなら、君はいい奴だよ。

だからこそ、どうでもいいとは思わない。

 

配られたカード、たとえ勝ち目がなくてもいい。荒野のど真ん中で

干からびる事になっても。

 

終わりなんてどうなるかわからない。

 

現実から逃げたい。仕事が辛い。人生は厳しい。

 

でも今日も生きていこう。

 

心が叫ぶ。それでもまだ、逃げたくないんだ。と